不動産取引の場面においては、売主が高齢者であるケースも少なくありません。不動産取引は売主と買主との間で行う契約ですので、売主側の意思能力が無いと判断されると、契約の有効性を巡ってトラブルに発展する可能性があります。高齢の方が不動産を売却される場合はどのような点に注意するべきか、確認しましょう。
意思能力とは
不動産を売却する際は売買契約を締結することとなりますが、この契約を有効に行うためには、売主に意思能力があることが必要です。
意思能力とは、自分の行為によってどのような法的結果が生じるかを認識、判断できる能力のことです。不動産の売買契約の場面でいうと、「売買契約を締結した結果、不動産の所有権は買主に移転し、売却代金を得る」ということを認識できる能力を指します。
意思能力のない人がした法律行為は無効です。すなわち、不動産の売主に意思能力がない場合には、売買契約をしても無効となります。例えば、不動産の所有者が高齢かつ認知症が進行してしまっているケースでは、正常な判断ができないまま売却してしまったり、契約したことを覚えていなかったり…といったトラブルが発生する可能性もあります。
意思能力がない場合の不動産売買
意思能力の有無は、画一的な基準があるわけではなく、その法律行為の性質や難易等を加味した上で、個別具体的に判断されるべきと考えられています。
しかしながら、認知症状の進行度は個人差もあり、ケース毎に個別で判断をするとなると、取引の相手方が不測の不利益を被ってしまう可能性もあります。
このような場合は、成年後見制度を利用することで、不動産取引、契約を進めることが可能になります。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害等の理由で意思能力が無い・あるいは不完全な人(=制限行為能力者)に対して、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てを行い、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度です。後見人になれる対象は、本人の身近な親族や、弁護士、司法書士、介護福祉士などが挙げられますが、あくまで本人の生活面等で生じている支障や個別の事情に応じて、家庭裁判所がふさわしいと判断した人を選ぶことに注意が必要です。
なお、成年後見人は本人の代わりに全ての財産管理や契約等の法律行為を行うことになるため、不動産に限らず、通帳や現金といった他の財産も管理する必要があります。
また、後見人が行うのは本人の利益となる法律行為しか認められません。裁判所が後見人に親族を選任するケースもありますが、その親族が不動産の売却代金を自身のために使用することは認められません。あくまで本人の利益を考えたうえで、合理的な判断をすることが求められます。
特に、高額な財産である不動産の売買は、意思能力の有無の確認が重要です。万が一、意思能力がない本人の不動産を勝手に売却し、買主が住んだ後に売買契約が無効となってしまうと、大きなトラブルに発展してしまいます。高齢者が所有している不動産の取引では、成年後見制度の活用を視野に入れると良いでしょう。